夫婦別姓にできないから二人とも名字を変えてみた話(吉田瑞季)

吉田瑞季

 わたしと同居人は婚姻届を提出した。

 片方が片方の被扶養者として健康保険証をゲットするためには、この謎の手続きが必須だったからである。
なんでや。めんどくっさ〜。しかし月1万円以上の費用を抑えるためには致し方ないのであった。

 結婚や、それに伴う手続きはとてもめんどくさい。
戸籍謄本を取り寄せ、婚姻届を書き、証人を見つけてサインしてもらい……

 しかし、とりわけ厄介なのは、「どちらかが名字を変える」ことで生じる手続きの山であった。
銀行のキャッシュカード、クレジットカード、免許証、保険証、各種サービスの名義変更(アマゾン、楽天、病院……)、新しい印鑑の購入。
さらには、旧姓の名義になっている場面では新しい姓の身分証が使えないので、住民票や免許証に旧姓を併記するために、役所をハシゴ……

 想像しただけでもくらくらする。

 わたしの母は結婚して名字を変えてから既に約30年、既に結婚前の姓で過ごした時間よりも長く今の姓で暮らしているが、今なお「旧姓のわたしと今の姓のわたしが同一人物だとわかる書類を出せって言われた!めんどくさい!」と暴れている時がある。

 一方、父(名字を変えなかった方)は、「え?銀行とかで名字変える手続きなんて一瞬じゃん」とか、「名字変えたくないなら結婚しなきゃいいのに」などとのたまっている。
両親の恐ろしいほどの温度差、そして刹那にピリつく空気にわたしは静かに目を閉じるのであった。

 幸いにも(?)わたしと同居人の二人とも、自分の元の名字にこれといってこだわりはなかった。しかし、めんどくささについては人一倍敏感であった。

 我々は話し合った。そして一つの結論にたどり着いた。

 もう二人とも一緒に名字を変えたらいいんじゃない?

 もちろん、結婚制度には現状そのような選択肢はない。Aという名字の人とBという名字の人がいたら、二人ともA、もしくは二人ともBという名字を名乗るしかない。結果として、どちらかは名字を変え、どちらかはそのまま、となる。

 わたしたちの計画はこうである。
わたしたちの二人のどちらかが、任意の誰か(今回は祖母)と養子縁組して名字を変える。
その後結婚して二人ともが養親の名字になる。以上。

 結果として、手続きのめんどくささは、従来の1+0=1から1+1=2(+養子縁組の手続き)になり、平均の一人当たりのめんどくささも0.5から1.0になった。

 めんどくさいのが嫌いな二人だったはずなのに、どうして?という感じである。

 しかし、わたしたちにとって、二人で大きな不平等が生まれるよりは、二人分が倍になっても同じめんどくささを分け合う方がだいぶマシな選択肢だった。
何より、折に触れて二人で「政治家が早く夫婦別姓にしてくれないからマジめんどくさいんだけど!!!」と一緒に怒ることができる。

 名字を変えるまでは、名前は単なる記号であって、人間を識別するという機能さえはたせれば「あ」だろうが「A」だろうがどうでもいいと思っていたし、今でも90%くらいはそう思っている。

 しかし、結婚後に戸籍上の姓と旧姓を両方使いながら思うのは、結婚したからといってその相手の姓という、身に馴染みのない文字列が「本名」としてわたしという人間の説明に使われるのはとても変な感じがする、ということである。

 いつかは慣れるのかもしれないし、その前に離婚するかもしれないし、あるいはなんか制度が整備されて別姓で戸籍を作り直せるようになるかもしれないけれど(いずれにせよめんどくさいが)、姓/名字という制度、ひいては結婚という制度自体が、奇妙で不自然だなあと思いつつ、今後も暮らしてゆくのだろう。

・著者プロフィール
吉田瑞季
オタクに夢を売る仕事をしているオタク
演劇・古典芸能・ヤクザ映画・詩歌

コメント

タイトルとURLをコピーしました