「ゆにここカルチャースクール」は、クィア&フェミニズムを基調としたカルチャースクールです。どんな立場の人も安心して学べる場所を目指し、「恋の歌だけじゃない短歌教室」「鏡を使わないコンテンポラリーダンス教室」など、日常をちょっと豊かに変える講座をいろいろご用意しています。
今回はちょっとでもゆにここカルチャースクールへご関心を寄せていただいたみなさま、あるいは楽しい学びの場をなんとなく求めているみなさまに向けて、漫画家/イラストレーターの松村生活さんによる体験ルポを公開いたします。
持病の関係で外出が難しかったり、大学の外部講座でマンスプレイニング(主に若い女性など立場の弱い相手に対して、聞いてもいない上から目線のアドバイスや説教をしてくる男性の態度のこと)に遭ったりと、これまで学習意欲を妨げる壁にぶつかってきたという松村さんの目に、ゆにここカルチャースクールはどう映ったのでしょうか。香山哲さんを講師にお招きした「完成させるためのゲーム教室」第1回&第2回について、4コマとエッセイでわかりやすくお伝えします!
書いた人:松村生活
漫画家・イラストレーター。
Twitter(@seikatsugakusyu)で『うにさんと私』というエッセイ漫画を描いていた。
Pixivでまとめて閲覧可能。
★第1回
●勉強への意欲を満たす場所が欲しい!
受講して最初に抱いた感想は、「こんなに安心して受けられる講座があるのか~!」という驚きでした。
私は昔から割と勉強意欲のある方だったのですが、楽しみにしていた大学の外部講座でマンスプおじさんに絡まれたり、「女の子としての意見」を突然求められたりと、勉強以外の嫌な事でやる気をなくしてその学びの場から離脱していくのを繰り返し、いつしか勉強すること自体から遠ざかるようになりました。
勉強意欲を取り戻したのはつい最近です。「新型コロナのおかげで」とは口が首の後ろまで裂けても言いたくないのですが、ここ1年ほどで自宅からZOOM等で受けられる講座が増え、新型コロナの蔓延以前から外出困難な病状だった私にも勉強のきっかけが増えたように感じます。
そんな時に目にしたのが、ゆにここカルチャースクール主催の香山哲さんによる「完成させる為のゲーム教室」でした。私は香山哲さんの漫画の大ファンであることもあり「これは楽しそう!」と感じ、たちまち申し込みました。その想像を超える楽しみを第1回から享受出来たことを幸福に思っています。
●「人生の時間は限られているから、なるべく楽しい時間は多い方がいい」
私の持病は年々悪化しており、漫画を描くという一種の体力仕事が困難になってきたため、「他の表現手段の特訓もしよう」と文章やゲーム制作に手を出すようになりました(他の手段も一種の体力仕事ですが)。しかしゲーム制作については、私の場合「プログラミング? 何? そもそもスクリプトとは? 一体?」レベルからの出発だったので一人で勉強するには限界があり、悩んでいたところでした。
香山さんのゲーム教室は、そんな初心者にも分かりやすい誠に親切なものです。これから教室で作っていくゲームのレベルをサイコロや輪ゴムに例えて教えてくれるし、「テーブルがブラウザ、皿がhtml、カレーがJSで、この講座ではカレーの部分だけやります」というような文学的な説明も明快で、同時に面白かったです。第1回の講座で出された宿題も、簡単ですが達成感がありました。自分が今作ろうとしてるゲームに関して、より簡単で確実に完成できる内容のものから始めようと、制作の方向性や現在地を見直すきっかけにもなりました。
ゲーム制作に限らず、「人生の時間は限られているから、なるべく楽しい時間は多い方がいい」という香山さんのお話にも、大変共感しました。漫画を描くのは心身ともに辛い時間が多いのですが、私は病状が悪くなってからは「なるべく楽してやる!」と思い、高い椅子やテーブルクッションや、布団の上に置けるテーブル等を買いました。しかし、香山さんのお話を聞いて、作業環境の改善も大事だが、創作物を作る時に当然払うものと思っていた精神的な苦しみのコストを減らしていくのも必要だなと気付き、「どうやったら苦しみの時間を減らせるかな?」と自分のQOLについて考えているところです。
ゆにここカルチャースクールのグランドルール通り、今のところ自分の見た目や属性から偏見に満ちた話をふっかけられることも、障害を理由に門を閉ざされることもありません。本来何処でも当たり前であって欲しいことですが、悲しいことにそうなっていない学びの場は多いです。やっとスタートラインに立てて、更に面白い講座を聞けて、「これを皆に知らせてまわりたい!」と浮かれた気分でいます。安心して学べるということがどんなに嬉しいか。奪われた時間も傷付けられた痕ももう元には戻りませんが、これからの未来を「楽しい時間」で満たしたいです。
★第2回
●第1回で出た課題に挑戦!
第1回のゲーム教室で出た課題は、JS(ジャバスクリプト)を用いてブラウザに画像を表示させたり、その位置を変えたりするというものでした。ゲームを作るにはまずブラウザにプレイ画面を表示させるところから!というわけです。香山さんが作ったお手本を改造して作るだけなのですが、初心者中の初心者である私は第1回のゲーム教室を何度も聞き直しながら怖々スクリプトをいじって作りました。一度受講した授業は1ヶ月間アーカイブで何度でも聞き直せる仕様になっているのが本当に良かったです。助かりました!
●新しいものをそのまま捉える
第2回の講義は、初回よりもJSの仕組みの説明が多く、私のメモ帳も沢山消費されました。初回ではhtmlをお皿に、JSをカレーに例えてわかりやすく説明して頂いたりしましたが、今回は「別のものに例えずに新しいものをそのまま捉える」努力も大事で、そうすると自分の地盤が新しく耕し直されるという話がありました。
目の前に新しく登場した何かを既知のものに例えて認識することにはとても安心感がありますし、何より容易です。しかし、その二つは決して同じものではないので、そうすると見落としや見間違いも出てきてしまうのです。「努力」と聞くと起き上がりたくなくなってしまう私も、香山さんの言う「新しいものをそのまま捉える」努力の重要性には、確かに!と深く納得しました。
●「わからない」を前提に向き合ってみる
そして第2回の教室で最も印象に残ったのは、香山さんの「決めつけない」という基本姿勢です。
香山さんは新しいものに関わる際、「どうせできない」とも「やればできる」とも思わずに「やれば少しできるかもしれないし、できないかもしれない」と、常に「決めつけない」姿勢でいるそうです。
「どうせできない」「わからないから怖い」と思って新しい物事を遠ざける癖がつくと、あらゆるものに対して腰が重くなってしまいます。反対に「やればできる」「わからないから面白い」と次から次へ新しいものに関わっていけば、深堀りできるはずのことも中途半端なままぐちゃぐちゃに終わってしまいがちです。そこで香山さんは「わからない」ことを前提に、あらゆる物事を決めつけないようにしているそうです。「わからないけど、やってみようと思うから少しやってみよう」と少しずつ探検して理解できる範囲を広げていったり、「もうやめようと思うけど、いつか再開するかもわからないからとっておこう」と、時には休んだりする姿勢を大切にしているとのことでした。
私は何かと「やればできる」と思いがちです。すぐ新しいことに手を出すものの、別のことに興味が移るのもものすごく早い人間だと、現時点では認識しています。それを私は「自分が飽き性だからだ」と思い込んできましたが、それも一種の決めつけだったのかもしれません。香山さんのように常時決めつけずに「わからない」という姿勢を維持して暮らすのは、いつも対象を解釈・言語化しようと焦って先走ってしまう私にとってとても難しいことです。でもそれは「人生の楽しい時間を増やす」上でも非常に大切な姿勢だなと思いました。
●決めつけずにやってみる
この「完成させるためのゲーム教室」というタイトルの「完成させる」という部分に惹かれた私は、何かと完成させる事が苦手でした。私が「生活学習」というサークル名でコミティアで漫画を売るようになったきっかけも、「〆切までにコツコツ作業を進めて完成させることが苦手だから克服したい」というのが主な理由です。「生活学習」の活動を7年ほど続けてきて、スケジュール管理はかなり得意になってきましたが、未だに「〆切」という魔物に対しては常に焦燥感を抱きながら生活しています。それは私が「やればできる」「もっとできる」と決めつけて、自分自身の尻を叩き散らしているせいだと今回気付いたので、香山さんの言う「わからない」生活を、自分も「わからないけどやってみたい」と感じました。
最初は「よ~し!面白いゲーム完成させっぞ~!」と昂って参加した私ですが、面白いかどうかは一旦気にせず「やれるかどうかわかんないけど、一度何か完成させてみようかな?」ぐらいの気負わなさで、全6回のこの教室をのんびり受講してみようと思います。
わからないものを遠ざけて排除したり、逆に安直に決めつけて「内」に入れようとしたりせずに「わからない」を前提に焦らずに誠実に付き合っていくというのは、あらゆる生き物が様々な形で各々暮らしている世界において、本来基礎であっていい考え方かもしれません。このゲーム作りの日々を通して、これからも新しく楽しい生活を学んでいきたいです。
★香山哲さんの「完成させるためのゲーム教室」ご予約はこちら!
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