【榊原紘の「推しと短歌」講座】短歌初心者がキャラクターイメージ短歌に挑戦してみた

笹井宏之賞受賞歌人・榊原紘さんが講師を務める短歌講座「推しと短歌」が、いよいよ9月16日(木)から始まります。
短歌の作り方・鑑賞の仕方から、「推し」たい人・もの・場所への思いを形にする技術までを身につけられる、初心者に優しい講座です。
講座の中では互いの短歌を評価し合う「歌会」も用意されており、榊原さんから直接指導を受けることができます。

今回は開始に先駆けて、ゆにここ編集部の短歌初心者・高島鈴がキャラクターをモチーフにした「折句」(歌の中に別の語句を折り込んで詠む短歌)に挑戦し、榊原さんに論評していただきました。さらに榊原さんによる新作キャラクター折句も6句掲載します!
「推し」の勇姿を31文字に落とし込む楽しさと奥深さに、皆さんも足を踏み入れてみませんか。

講師:榊原紘
歌人。第二回笹井宏之賞受賞。歌集に『悪友』(書肆侃侃房)、『セーブデータ』(私家版)。

受講者:高島鈴
ライター。短歌初心者。今回初めて「折句」に挑戦した。

今回テーマにした作品:ファイアーエムブレム風花雪月
Nintendoから発売されているシミュレーションゲーム。
舞台は3つの地域からなる大陸・フォドラの中央にある士官学校。主人公は出身地域ごとに生徒が編成された3つの学級から1つを選び、担任の教師として生徒たちを導くことになる。
序盤は不穏な学園ものとして話が進行するが、物語中盤である人物が戦争を起こし、3つの学級は同級生から敵同士に。主人公の選択によってフォドラの未来・登場人物の行く末が大きく変わってしまう、膨大なシナリオと残酷な分岐に彩られた名作ゲームである。

※以下、「ファイアーエムブレム風花雪月」のネタバレを含みます。

編集部・高島のキャラクター折句と榊原紘さんの評

リンハルト=フォン=へヴリング

倫理すら君に投げ出させた場所を去った春には共寝がしたい
「りん」りすらきみになげださせたばしょをさった「はる」には「と」もねがしたい

榊原:
黒鷲学級のリンハルト=フォン=へヴリングの歌ですね。(最推しです)
彼は帝国内でも有名な伯爵家の嫡子で、頭脳明晰ですが自身の研究を世のため人のために使おうとは思っていません。好きな研究は寝食を忘れ没頭しますが、その後数日寝続けるなど、彼を語るときに「睡眠」は欠かせないワードです。彼はもともと性格は戦闘に向いておらず、血も苦手です。それでも彼も戦わなくてはならないときが来ます。平穏に暮らしたかった彼が戦いに駆り出されてしまったことを分かりながらも、大事な要素である「睡眠」に最終的に焦点が当てられていてよいと思います。春眠暁を覚えず。「春」と「共寝」という単語がやさしいですね。
「場所を去った春」という接続によって、場所も季節も同時に移動させる〈技〉がありますね! 健やかに眠らせてあげたい、という気持ちよりさらに進んで、自分もその春に生きていて(戦いを越えていて)、共にその場で同じことをしましょう、というのは、もはや祈りといってよいでしょう。
リンハルトくんはペアエンド(特にカスパルくん、リシテアちゃん、ドロテアちゃん)も好きなのですが、ソロエンドも「それでこそリンハルト~~~!!!」という感じがして本当に好きです。

エーデルガルト=フォン=フレスベルグ

「ファイアーエムブレム風花雪月」より撮影
永遠が出る杭を打ちたがるので永遠を討つ 当然のこと
「えい」えんが「でる」くいをうちた「がる」のでえいえんをうつ 「と」うぜんのこと

榊原:
黒鷲学級の級長、エーデルガルト=フォン=フレスベルグの歌ですね。
彼女は帝国の皇女で、次期皇帝です。威厳に溢れたキャラですが、前述のリンハルトや同学級のメンバーの能力を冷静に分析し、皇帝になった暁のそれぞれのポストも考えています。
彼女の性格を示すように、歌にも言い切りの強さが出ています。「永遠」という、本来は漠然とした名詞が具現化しており、それは彼女が憎んでいたフォドラの地に脈々と継がれてきた伝統、紋章主義や信仰であると思います。それを「討つ」と言えるのは、彼女の強さゆえです。
「打ち/たがる」には〈句跨り〉が使われていますね。「永遠」が嬉々として能力のある人(特に、能力があっても平民など地位が低い人)を蹂躙していくように見えている、彼女の視点が映されています。「出る杭を打ちたがる」は、「出る杭を打つ」よりも恣意的です。それを「討つ」のは「当然のこと」。今まで当たり前のように受け継がれてきた「永遠」は、彼女にとってそのような存在なのです。しかし、そこまで大きなことをしなくてはならなかった彼女は、本当は強くならなくてよかった少女だったのですが……。
「当然のこと」の前に一字空けがくることで、景色と感情の間に空白が生まれます。ここから、「当然のこと」の部分に迷いのない意志の強さを感じ取ることもできますし、あるいは逆にわざわざ「当然」だと示すことにより、自身を奮い立たせているかのような、納得させるかのような気持ちを見ることもできるでしょう。

ユーリス=ルクレール

「ファイアーエムブレム風花雪月」より撮影
征くんだろ あなたがあなたを待つ場所に凛として立つ姿が好きだ
「ゆ」くんだろ あなたがあなたをまつばしょに「り」んとしてたつ「す」がたがすきだ

榊原:
DLCで新しく登場した灰狼学級のユーリス=ルクレールの歌ですね。
彼は貧民街で街娼の子として生まれ、後に王国の貴族に見出され養子となります。エーデルガルトのように国を背負う家で育ったキャラクターもいれば、貧民街で育ったり、親が早くに亡くなってしまったりするキャラクターもいます(貴族の出だからといって不自由がないわけではありません)。その中でも、ユーリスはかなり厳しい状況が続いていたように見受けられるキャラクターです。
「征くんだろ」のあとの一字空けが非常に効果的ですね。「征くんだろ」の時点では彼はまだ旅立ちの前ですので、「あなたを待つ場所に凛として立つ」姿は幻視か、あるいは過去にあった景色です。どちらにせよ、戦乱の後に彼がその場所に向かえる・戻ることができる希望が見えてとても素敵ですね。
「あなたがあなたを待つ場所に」に集中するA(母音「あ」)の音が、「あなた」のリフレイン以上のリズムのよさをもたらし、「凛として」の「凛(Rin)」を、意味だけではなく音の面でも際立たせています。
歌の中で「好きだ」と告げる存在は、このユーリスを大切に思いながら、「あなたを待つ場所」にはいないでしょう。「征くんだろ」と呼びかけている(思っている)わけですから。ユーリスにはユーリスの向かうべき(戻るべき)場所があり、そこに立つときのあなたが好きだと思う。そこに立つとき、凛としていることを疑わない。自分の傍からいなくなることを止めはしない。
三首ともにいえることですが、キャラクターのことを分かっているとより深く楽しめながら、一首の歌としてしっかり意味を追えるものになっていると思います。またできたら見せてくださいね!

榊原紘さんによるキャラクター折句

キャラクターの名前のほか、各キャラの初期装備である武器もそれぞれ入れて詠まれています!

ディミトリ=アレクサンドル=ブレーダッド

「ファイアーエムブレム風花雪月」より撮影
でも決めた生き地獄だろ 自らを弔うことも膂力の限り
「で」もきめた「い」きじごくだろ 「み」ずからを「と」むらうことも「り」ょりょくのかぎり

泥濘も怒りも胸に満ち満ちて磨《と》ぐ真槍は理想のために
「で」いねいも「い」かりもむねに「み」ちみちて「と」ぐしんそうは「り」そうのために

エーデルガルト=フォン=フレスベルグ

「ファイアーエムブレム風花雪月」より撮影
永訣に出る幕はない 凱歌なら類火を呑んで遠くへ響け
「えい」けつに「で」るまくはない 「が」いかなら「る」いかをのんで「と」おくへひびけ

栄辱よ、出る幕のない骸骨よ、類世の縁を咎める斧よ。
「えい」じょくよ、「でる」まくのない「が」いこつよ、「る」いよのえんを「と」がめるおのよ。

クロード=フォン=リーガン

「ファイアーエムブレム風花雪月」より撮影
砕け散る論過の数に躍るなら宴といわず泥の上でも
「く」だけちる「ろ」んかのかずに「お」どるならうたげといわず「ど」ろのうえでも

口真似も露悪的だな 弩《おおゆみ》を担ぎ次への扉《ドア》へと進む
「く」ちまねも「ろ」あくてきだな 「お」おゆみをかつぎつぎへの「ど」あへとすすむ

ユーリス=ルクレール

「ファイアーエムブレム風花雪月」より撮影
夕闇に集うものでも君ならば理非を問わずに統べるのだから
「ゆう」やみにつどうものでもきみならば「り」ひをとわずに「す」べるのだから

悠々と洋剣《サーベル》を提げ歌うだろう略譜を前に宿世を前に
「ゆう」ゆうとさーべるをさげうたうだろう「り」ゃくふをまえに「す」くせをまえに

キャラクター折句に挑戦してみて

高島:
今回初めてキャラクター折句に挑戦し、さらに評をいただくという経験をしました。
まず実感したのは、とにかく評をもらうことは大事!だということ。
私はこれまで歌会などに出たことがないまま短歌を趣味で作っていたので、自作の歌がいいのか悪いのか、この歌がどう読み取りうるのか、自分で作ったのにいまいちわかっていませんでした。
今回は、折句は5・7・5・7・7の頭文字で意味を折り込むのが一般的である、という短歌の基本的な作法から、31文字という極めて限られた字数の中でいかにキャラクターのいる情景を詠み込む/読み取るのか、という視点の持ち方まで、ひとりで作っていてもわからないことを優しく教えていただけて、非常に勉強になりました。
自分で想定していた以上の読みを拡張してもらったときの喜びは、創作のモチベーションアップにもなりますね!

また、31文字の狭いフィールドに意味や情景を凝縮させる短歌という営みは、自分の思考の研磨に非常に役立つと思いました。
私はふだん散文を書いているので、つい紙幅に甘えてしまいがちです。
短歌には言葉ひとつひとつを噛んで味わいながら、余計な語句を切り詰めていく緊張感があり、言葉の筋力が鍛えられるように感じました。
好きな歌人の作品と比べて自分の作品を見返し、推敲を重ねて言葉を研ぎ澄ませていくルーティーンを回しやすいのも、短歌の魅力のひとつだと実感しています。
愛する対象について自分の考えをいかに語るか。この巨大なテーマに向き合うための第一歩として、「推しと短歌」講座はきっと最適です!

榊原紘さんの「推しと短歌」講座概要

・講師:榊原紘
・参加費:3000円/回
・回数:全4回
 第1回 9月16日(木)19:00~20:30
 「短歌・二次創作講義――推しに出会う三十一文字」
 第2回 9月30日(木)19:00~20:30
 「連作講義――最強のデッキを組み上げろ!」
 第3回 10月17日(日)15:00~17:00
 「評・旅行詠――この世はでっかい二次創作」
 第4回 10月31日(日)15:00~17:00
 「歌会――レヴューを始めよう」
・​​​​​​授業方法:zoomによるオンラインワークショップ
 ※全てアーカイブ配信あり
・部分受講:可

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