カレとの恋を占うな/「あぶないいきもの」#4(直角)

『月で読むあしたの星占い』
石井ゆかり=著
すみれ書房

カレとの恋を占うな

占いが苦手だった。
なぜなら、恋が苦手だからだ。

友人たちと一緒に雑誌の占い特集を読むとしよう。
床に広げた雑誌を囲んで、輪になって座る。
みんなはとても楽しそうに誕生日やら血液型の話をしている。
誌面には「気になるカレとの恋を占っちゃおう!」の文字が踊っている。
そこで私は思う。

「カレって誰だよ!!!」

そもそも占いの話になると、ほぼ100%の確率で自分たちの恋愛の話に移行することになって、そうすると「私レズビアンなので……っていうか恋愛そのものにあまり興味がなくて……いえ、あの、性的な話はまた別というか……」とか言わなきゃならなくなって、それも無理な場合は適当な理由をつけてはぐらかさなければならなくなって、その全てが私は嫌なのだった。

でも本当は、私も占いをやりたかった。

占いを心から信じているというわけではない。
私にとって占いは親密な話し相手を持つことに似ている。
仮に結果が外れていると感じたとしても、そこには自分なりの理由がある。
今、何を感じているのかに注意を向け、検討する機会を与えてくれるのだ。
私は自分の感情と向き合うことが不得意なので、占いがその助けになってくれたらと思っていた。

だからこそ、雑誌の中の占いの世界に私の居場所がないことが悲しかった。

カノジョとの恋を占いすぎるな

「クィアな」星占いと出会ったのは、そんなある日のことだった。
“Queer Astrology for Women(女性のためのクィア星占い)”という書籍を見つけたのだ。

クィア向けと聞いては黙っていられない。
さっそく購入した。

おしゃれなイラストに期待しながらページを開き、自分の星座の目次を見て、びっくりした。
“In Life(生活において)”の次の節がいきなり”In Bed(ベッドにおいて)”となっていたのだ。
その後の節も、“How to Seduce Her(彼女を誘惑するには)”、“How to Last over the Long Haul(彼女と長続きするには)”、“How to Get Rid of Her(彼女と別れるには)”と続く。
全ての行が非常にセクシュアル、かつロマンティックだった。
内容はあまりにも露骨なのでここに引用することは控えるが、限りなくマイルドにするならば「ふたご座のレズビアンは知的で性に関しても冒険好き、別れたいときは退屈な話を百万回繰り返せ!」みたいなことが書いてある。そんなこと言われましても……。

クィア女性のための星占いというのは、その実、女性同士の恋愛「だけ」を扱っている本だったのである。

いや、これが重要な本だということはわかっている。めちゃくちゃ楽しく読める人も多いと思う。
女性誌を読んでも「カレ」との恋しか占うことのできない世の中で、女性同士の恋占いを求めてきた人々は確実にいるからだ。
ヘテロセクシュアルの人たちが当然のように享受してきた楽しみをより多くの非ヘテロセクシュアルに与えたという点において、大きな意義がある。

ただ、恋愛というのは結局のところ私たちの生活の一部でしかない。
クィアであることに焦点を当てているからなのだろうか、どのページの占いを見ても恋愛、恋愛、恋愛の連続で、個人的には少々息苦しかった。
クィア星占いということで確かに異性愛至上主義は脱しているかもしれないが、そこに新たに恋愛至上主義が立ちふさがったように思えた。
占うことならもっとほかにもあるだろう……わかんないけど、ほら、健康運とか……?

確かにカレとの恋を占うなとは言った。
しかしそれは、カノジョとの恋だけ占ってろという意味ではなかった。

星たちは恋愛至上主義か?

やっと出会えたクィア星占いにもうまく馴染めなかった私は、悩んだ。
やはり占いを楽しむことは自分には不可能なのだろうか?
どんな占いだったら満足できるのだろう?

すると、ある友人が言った。
「石井ゆかりさんの占いは読んだことある?」

名前は聞いたことがあった。
他のクィアの知人も石井さんのファンだと言っていたからだ。
調べてみると、ちょうど新刊が出たばかりらしい。
これでだめだったらもう占いは諦めようという思いで、買った。

『月で読む あしたの星占い』は、ただの占いの本ではない。
占いを「自分でできる」ようになるための本だ。
占いは読むものと思い込んでいたから、これには少し驚いた。
ところどころにカシワイさんの挿絵が入っていて、余白を生かした表現が美しい。

画像はAmazon.jpより

読み進めていくと、気持ちが少しだけ楽になるのを感じた。

恋愛に関する記述が過剰でないこと。
仮に恋愛の話題があったとしても、生活の他の要素と同列に置かれていること。
そしてもちろん、相手と自分のジェンダーを限定していないこと。
そうした一つ一つのことが、心の重荷を軽くしてくれるようだった。

この本では「スタートの日」「家の日」「旅の日」など、一ヶ月を12種類の日に分類して占っていく。
私が最も心を惹かれたのは「愛の日」の説明だ。

「愛の日」と言えば、恋愛を思い浮かべる人が多いはずですが、この「愛」は、子どもへの愛や趣味への愛、ペットへの愛、仕事への愛など、なんでも当てはまります。あなたが個人として抱く愛ならどんな愛でも、「愛の日」なのです。

目から鱗が落ちた。
占いと言うと恋愛の話ばっかり聞かされてきたけど、星にそう書いてあるんじゃないんだ。
異性愛至上主義・恋愛至上主義なのは星じゃなくて星を読む人間のほうだったんだ。

そう考えるととても安心した。
生まれて初めて、占いと和解できたように思った。

自分で占おう

さて、いよいよ自分で占ってみる段だ。
まったくの素人なのでやり方に不正確なところもあるかもしれないが、本を参考にしながら自分なりにやってみた。
朝起きて、今日は何の日かを確認して、どんな日になりそうかな?とイメージしてみる。
あるいは、夜寝る前に、その日の出来事を振り返ってみる。
まずは二週間続けることにした。

日々の占いをするようになって気づいたのは、同じ「愛の日」でも、解釈にかなりの幅があるということだ。

恋愛に関係したハッピーな出来事が起きると読むことはもちろん可能だ。
しかし、本書には他にも「愛」に関係したテーマとして「楽しみ、遊び、趣味、クリエイティブな活動、子ども、自分から自分自身の喜びのために進んでやりたいと思えること」などが挙げられている。
上記を踏まえて、自分の状況に引きつけた解釈を選び取ることになる。

例えば、こうして文章を書いている場合であれば、取り組んでいる原稿がうまく進むというふうに読むこともできるというわけだ。
自分で占っているのだから「一目惚れの予感♡」や「浮気にご用心!」などの文言に悩まされることもなく、実にストレスフリーである。

二週間はあっという間に過ぎた。

占いの楽しみ

今でも、折に触れて自分で占いをしてみる。
占いを信じるようになったとは言えない。
でも、ちょっと時間があるときに今日はどんな日か占ってみると、自分の置かれた状況について理解が深まる。
それはまるで、繰り返しになりがちな日常に色がつくようだ。
何より、その色が自分に合っていることがこんなにも喜ばしいとは思わなかった。

私に占いの楽しみを教えてくれた石井さんにありがとうと言いたい。

・著者プロフィール
直角
インターネットレズビアン
Twitter:@ninety_deg

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