ブックリスト「砕氷船をかたちづくった本」

俳人・斉藤志歩さん、歌人・榊原紘さん、柳人・暮田真名さんによる短詩集団『砕氷船』。 

ゆにここカルチャースクールでは、それぞれ講師としても活躍中です。

そんな砕氷船のメンバーである、斉藤志歩さんがこの冬、第一句集「水と茶」をご出版されました! そこで、「水と茶」出版記念企画と題しまして「砕氷船をかたちづくった本」をそれぞれお伺いし、ブックリストを作成しました。

このブックリストは、個人的に楽しむむために印刷するほか、書店や、学校、会社でもお好きに刷って、配っていただいて構いません。

冬休みや年末年始のお供に、本を読んでみるのはいかがでしょうか?

斉藤志歩をかたちづくった3冊

斉藤志歩(さいとう・しほ)

俳人。第8回石田波郷新人賞受賞。2022年冬、第一句集「水と茶」を刊行。

斉藤志歩「水と茶」

公式サイト:https://saitoshiho.com/

ゆにここカルチャースクールにて俳句講座「俳句のひみつきち」をこの秋より開講。

【作品紹介】

バス停にバスの沿ひゆく暮春かな

掲げられビールはダンスフロア行く

球場は地図に大きく鳥渡る

水と茶を選べて水の漱石忌

アーサー・コナン・ドイル
『シャーロック・ホームズの冒険―新訳シャーロック・ホームズ全集 』
日暮雅通・訳(光文社文庫)

名探偵になりたかった。というのは半分嘘で、今でもなりたい。探偵の七つ道具を小型のポーチに整理して入れた。本を読んでモールス信号を勉強した。ポラロイドカメラを持ち歩いて地下道の写真を撮った。いろいろな香水の匂いを記憶した。それらすべてが、いつか役立つかもしれないから。

寺田寅彦『科学と科学者のはなし: 寺田寅彦エッセイ集』(岩波少年文庫)

一人の人間が科学と文学を両方やってもいいと教えてくれた人が、寺田寅彦だ。科学に文学を持ち込んだのが彼の「金平糖の角の研究」だとすれば、文学に科学を持ち込んだのがこれらの愉快なエッセイだといえるだろう。あのころは、自分が物理学と俳句を学ぶようになるとは思わなかった。

ウー・ウェン『料理の意味とその手立て』(タブレ)

「毎日の食事がからだを作るんだから」「へんなものを食べている時間はないよー!」と書いてあって、「ハイ!」と思う。ウー・ウェンさんのレシピはシンプルでうまい。砂糖がほとんど入らないのも私の好みだ。この本は調理の各工程の意味合いが明快で、確信を持って包丁を握れるようになる。

榊原紘をかたちづくった3冊

榊原紘(さかきばら・ひろ)

第2回笹井宏之賞大賞、第31回歌壇賞次席。

2020年第一歌集『悪友』刊行、2021年重版。

第二歌集『セーブデータ』(私家版)完売。

ゆにここカルチャースクールにて短歌講座「推しと短歌」第6期を開催中。

【作品紹介】

氷面鏡《ひもかがみ》そうだ命をそばだてて此処まで奪《と》りに来てみたらいい

額縁を焼べてきたかのような貌ゆっくり上げてただいまと言う

花豆のケーキにフォークあてがって生きるとは抗うこと 私たち

ゲーテ『ファウスト』(高橋義孝訳)

僕の人生は『ファウスト』に出会う前と後に分けられる。『神曲』、ヨブ記、ギリシア神話などの知識が全編韻文で、ここまで長大な戯曲に結実していることが、恐ろしくも震えるほどに嬉しい。卒論でも錬金術と絡めて扱ったので思い入れも一入。数ある翻訳の中でも高橋義孝訳がおすすめ。

レマルク『西部戦線異状なし』(秦豊吉訳)

第一次世界大戦に従軍した筆者が書いたこの小説に出てくる、〈ぼく〉とカチンスキーが家鴨を焼いて食べるシーン以上に泣きたくなる食事シーンを、僕はまだ知らない。ドイツで最も好きな都市の本屋で原著を買ったことを含めてよい思い出であり、最後に明かされるタイトルの意味も秀逸。

あさのあつこ『バッテリー』

中学野球の小説、なのに今も脳に焼き付いているのは、才能と傲慢さと嫉妬と劣等感に塗れた、打ちのめされるような人と人の関わり。どれほど憧れても憎くても離れられない、魂の一部が癒着してしまった末路の一つがそこにある。どのキャラを好きになるかでその後の人生に影響が出る。僕は瑞垣俊二です。

暮田真名をかたちづくった3冊

暮田真名(くれだ・まな)

1997年生。「川柳句会こんとん」主宰。歌人の大橋なぎ咲さんとのユニット「当たり」。

第一句集『補遺』、第二句集『ぺら』(ともに私家版)、川柳句集『ふりょの星』(左右社)。

『はじめまして現代川柳』(書肆侃侃房)入集。

ゆにここカルチャースクールにて川柳講座「あなたが誰でもかまわない川柳入門」を開講。

【作品紹介】

寿司を縫う人は帰ってくれないか

かけがえのないみりんだったね

飴色になるまで廊下に立っている

後半で食物連鎖するとはね

体温でアバンチュールがぱさつくの

藤子・F・不二雄『ドラえもん』(てんとう虫コミックス)

人生のごく早い段階で読んだ。はじめに母がブックオフで何巻か買ってきて、時間をかけて全45巻が買い与えられた。『ドラえもん』を経由して知った言い回しがたくさんあるから、私は言葉を一部ドラえもんに教わったことになる。日本語を身につけたおかげで川柳が作れるので、感謝している。

けらえいこ『あたしンち』(KADOKAWA)

帰り道に窓から部屋に飾られた小泉今日子のポスターが見えるアパートがあり、その前を通るたびに「キョンキョン」と思う、というエピソードがある。未就学児だった私は小泉今日子=キョンキョンであることを知らず、「なにかそういうかんじ」を表す擬音だと思い、日記に「キョンキョン」と書いた。

panpanya『魚社会』(楽園コミックス)

panpanya作品の登場人物/動物たちはかしこい。panpanya作品の登場人物/動物たちはかわいい。己の持てる知識や時間を総動員して、目のまえに立ちはだかる問題を解決しようとする生きもののたくましさ。それがこんなにも愛おしいものとしてこまごまと描かれることに、いつも勇気づけられてきた。

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